はじめに
ある日、お庭の梅の木をふと見上げたとき、葉っぱに黒いシミのようなものがポツポツとついていて、ドキッとしたことはありませんか。「これって病気なのかしら」「このまま枯れてしまったらどうしよう」と、急に心配になってしまった方も多いのではないでしょうか。大切に育てている木だからこそ、いつもとちがう様子を見つけると、不安になるのは当然のことです。
でも、ご安心ください。梅の病気の多くは、早く気づいてあげれば、決してこわいものではありません。人間の病気と同じで、早期発見・早期対応がいちばんの薬なのです。風邪をひいたとき、初めのうちに体を休めれば軽くすむのに、無理を続けると悪化してしまう。梅の木もまったく同じで、「あれ、なんだか変だな」という小さなサインに早く気づいてあげることが、木を守るいちばんの近道なのです。
この記事では、梅がかかりやすい代表的な病気について、庭師の目線でとことんわかりやすくお伝えします。とくに「黒星病(くろほしびょう)」「かいよう病」「すす病」という三大病気の見分け方を中心に、ご家庭でかんたんにできる「早期発見のチェックシート」もご用意しました。さらに最後には、もうひとつ大切なお話を。じつは、病気に強い元気な木を育てるいちばんの秘けつは、薬ではなく「剪定(せんてい=枝を切って整えること)」にあります。この記事を読み終えるころには、「これなら、うちの梅も守れそう」と、きっと安心していただけるはずです。それでは、一緒に梅の健康を守る方法を学んでいきましょう。
なぜ梅は病気にかかるの? ~原因を知れば、こわくない~
梅の病気をふせぐ第一歩は、「どうして病気になるのか」その原因を知ることです。なぜなら、原因がわかれば、こわがるのではなく、落ち着いて正しく対応できるようになるからです。
梅の病気のほとんどは、目に見えない小さな「カビの菌」や「ばい菌」が原因です。これらの菌は、空気中や土の中、枯れ葉のかげなど、私たちの身のまわりのいたるところにいます。そして、ある条件がそろったときに、いっきに増えて木にとりついてしまうのです。その条件とは、おもに「湿気が多い」「風通しが悪い」「日当たりが悪い」の三つです。
たとえるなら、ジメジメしたお風呂場
イメージしやすいように、お風呂場で考えてみましょう。窓もなく、いつも湿っていて、風も通らないお風呂場には、すぐに黒いカビが生えてきますね。反対に、よく換気して、からっとかわいたお風呂場には、カビは生えにくいものです。梅の木もまったく同じです。枝が混み合ってジメジメして風が通らない木は、お風呂場のカビと同じように病気の菌が大よろこびする場所になってしまうのです。
だから「風通し」がいちばん大事
つまり、梅の病気をふせぐカギは、菌が好む「ジメジメ」をなくし、「からっと風通しのよい状態」を作ってあげることなのです。これは薬を使う前の、いちばん大切な土台になります。そしてこの「風通し」をよくする作業こそが、じつは剪定なのですが、その話は後ほどくわしくお伝えします。
つまり、梅の病気は「湿気・風通しの悪さ・日当たりの悪さ」から生まれます。原因さえわかれば、むやみにこわがることはありません。落ち着いて、ひとつずつ対策していけばよいのです。
梅の三大病気を見分けよう ~黒星病・かいよう病・すす病~
病気から木を守るには、「どの病気なのか」を見分けられることが大切です。なぜなら、病気によって症状も対策もちがうため、正しく見分けることが正しい対応の第一歩になるからです。ここでは、梅がとくにかかりやすい三つの病気を、見た目の特徴とあわせてくわしくご紹介します。
その1:黒星病(くろほしびょう)~実や葉に黒い点々~
黒星病は、梅にもっともよく見られる病気のひとつです。その名のとおり、実や葉に「黒い星のような点々」ができるのが特徴です。初めは小さな黒い斑点ですが、だんだん広がって、すす(煤)のような黒いかさぶたになります。とくに実にできると、見た目が悪くなり、梅干しや梅酒にするときにがっかりしてしまいます。
この病気は、春から梅雨にかけての、雨が多くジメジメした時期に発生しやすくなります。雨のしずくにのって菌が広がるので、雨の多い年はとくに注意が必要です。落ちた葉や実に菌がひそんでいて、それが翌年の発生源になることも多いので、病気の出た葉や実は、こまめに拾って片づけることが大切です。
その2:かいよう病 ~枝や実にできるかさぶた状の傷~
かいよう病は、菌ではなく「細菌(さいきん=バクテリア)」が原因の病気です。葉や枝、実に、ぽつぽつとした茶色や黒っぽい斑点ができ、やがてそこがかさぶたのように、かたく盛り上がったりへこんだりします。「かいよう」とは、ただれて傷ができるという意味で、まさに木に傷ができるような病気です。
この病気のやっかいなところは、おもに「傷口」から菌が入ることです。強い風で枝どうしがこすれてできた傷や、虫が食べたあとの傷から、菌が侵入します。とくに海に近い地域では、潮風で葉に細かい傷がつきやすく、発生しやすいといわれています。風当たりの強い場所に植えている方は、とくに気をつけてあげましょう。
その3:すす病 ~葉や枝が黒くすすけたように~
すす病は、葉や枝の表面が、まるでストーブのすすをかぶったように、黒くベタベタと汚れてしまう病気です。葉が黒くおおわれると、太陽の光をうまく受けられなくなり、木が元気をなくしてしまいます。
じつは、このすす病には、ある「犯人」がかくれています。それが、アブラムシやカイガラムシといった「害虫」です。これらの虫は、葉や枝から汁を吸って、甘いベタベタした排せつ物を出します。その甘い汁を栄養にして、すすのような黒いカビが繁殖するのです。つまり、すす病は「虫が原因で起こる病気」なのです。ですから、すす病を見つけたら、黒い汚れをふきとるだけでなく、おおもとの原因である虫を退治することが、根本的な解決になります。
つまり、「黒星病は黒い点々」「かいよう病はかさぶた状の傷」「すす病は黒いすす汚れ(犯人は虫)」。この三つの特徴を覚えておけば、いざというときに落ち着いて見分けることができます。
コピーして使える!梅の病気・早期発見チェックシート
病気を早く見つけるいちばん確実な方法は、「決まったポイントを定期的にチェックする習慣」を持つことです。なぜなら、なんとなく木をながめているだけでは、小さな変化を見のがしてしまうからです。チェックする場所を決めておけば、初心者の方でも、プロのように異変に気づけるようになります。
ここでは、月に一~二回、お庭に出たときにサッと確認できる「早期発見チェックシート」をご用意しました。お孫さんとの宝さがしのように、楽しみながら見てまわってみてください。
チェック1:葉っぱの表と裏
まずは葉っぱです。表面に黒い点々はありませんか。すすのような黒い汚れはついていませんか。そして、忘れずに葉の「裏側」もめくって見てください。虫は葉の裏にかくれていることが多いのです。葉が黄色くなったり、ちぢれたり、ベタベタしていないかも確認しましょう。
チェック2:枝のようす
次に枝を見ます。枝に、かさぶたのような盛り上がりや、へこんだ傷はありませんか。枝の一部だけ色が変わって、枯れているところはないでしょうか。枝を折ったときに、中が変色していたら要注意のサインです。
チェック3:実のようす
実がなる時期は、実もチェックします。黒い斑点やかさぶたのような傷がついていないか、変な形にゆがんでいないか、よく見てあげましょう。
チェック4:木の根元と地面
意外と見落としがちなのが、木の根元です。落ち葉や落ちた実がたまっていませんか。これらは病気の菌のすみかになります。また、地面にキノコが生えていたり、根元がジクジク湿っていたりしないかも見ておきましょう。
チェック5:全体の元気さ
最後に、少し離れて木全体をながめます。去年とくらべて、葉の数が減っていないか、なんとなく元気がないように見えないか。木全体の「いつもとちがう感じ」に気づくことも、大切なサインなのです。
つまり、「葉の表裏・枝・実・根元・全体」という五つのポイントを、定期的にチェックする。これを習慣にするだけで、病気を初期のうちに見つけて、大事にいたる前に手を打てるようになります。
病気を見つけたときの対処法 ~あわてず、正しく対応する~
もし病気を見つけても、あわてる必要はありません。なぜなら、初期であれば、正しい手順で対応すれば、たいていの病気は広がりをおさえられるからです。ここでは、病気を見つけたときの基本の対処法を、順番にお伝えします。
手順1:病気の部分を取り除く
まず最初にやるべきことは、病気にかかった葉や枝、実を取り除くことです。黒い点々のついた葉、かさぶたのできた枝、傷んだ実を、清潔なハサミで切り取ります。病気の部分を残しておくと、そこからどんどん菌が広がってしまうからです。これは、悪いところを早めに取り除く「外科手術」のようなものです。
手順2:取り除いたものは必ず処分する
ここがとても大切なポイントです。切り取った病気の葉や枝を、木の根元にそのまま捨ててはいけません。そこから菌がまた広がってしまうからです。ビニール袋に入れて口をしばり、燃えるゴミとして処分するか、ほかの植物から離れた場所で処理してください。落ちている病気の葉や実も、同じようにきれいに片づけましょう。
手順3:道具を清潔にする
病気の枝を切ったハサミには、菌がついています。そのまま別の枝を切ると、健康な部分に病気をうつしてしまいます。ですから、病気の部分を切ったあとは、ハサミの刃をアルコールでふくなどして、清潔にしてから次に使いましょう。
手順4:必要に応じて薬を使う
被害が広がっているときや、毎年くりかえし発生するときは、園芸店で売っている専用の薬(殺菌剤(さっきんざい)など)を使う方法もあります。使うときは、必ず説明書をよく読み、書かれている量や時期、回数を守ってください。「たくさんかければよく効く」というものではありません。とくに実を食べる梅では、収穫前の使用時期に決まりがあるので、注意が必要です。
つまり、「病気の部分を取り除く・必ず処分する・道具を清潔にする・必要なら薬を使う」。この基本の手順を落ち着いて行えば、病気の広がりをしっかりおさえることができます。
害虫もチェック!病気を呼ぶ虫たち ~アブラムシ・カイガラムシ・ウメケムシ~
病気の話とあわせて知っておきたいのが「害虫」です。なぜなら、先ほどのすす病のように、虫が病気を呼びこむことがあり、虫の対策が病気の予防にもつながるからです。ここでは、梅につきやすい代表的な虫をご紹介します。
アブラムシ ~新芽に群がる小さな虫~
春先、やわらかい新芽や若い葉に、緑色や黒っぽい小さな虫がびっしりついていたら、それがアブラムシです。汁を吸って木を弱らせるだけでなく、甘い排せつ物を出してすす病を引き起こす、やっかいな虫です。見つけたら、数が少ないうちに、ガムテープでペタペタ取ったり、水いきおいよく流したりして退治しましょう。
カイガラムシ ~枝にこびりつく白い粒~
枝に、白っぽい貝がらのような、または綿のような小さな粒がこびりついていたら、カイガラムシです。これも汁を吸って木を弱らせ、すす病の原因になります。かたい殻におおわれていて薬が効きにくいので、古い歯ブラシなどでこすり落とすのが効果的です。
ウメケムシ(オビカレハ)~葉を食べる毛虫~
春に、枝に白い糸でテントのような巣を作り、その中にたくさんの毛虫が集まっていたら、ウメケムシ(オビカレハの幼虫)です。葉を食べつくしてしまうので、見つけたら早めに、巣ごと枝を切り取って処分するのが効果的です。毛虫の中には、さわるとかぶれるものもいるので、手袋をして作業しましょう。
つまり、「アブラムシ・カイガラムシ・ウメケムシ」は、梅の代表的な害虫です。これらの虫を早めに退治することは、木を守るだけでなく、すす病などの病気をふせぐことにも直接つながるのです。
【プロの視点】病気に強い木を育てる最大の秘けつは「剪定」だった
ここからが、梅の専門サイトだからこそお伝えしたい、いちばん大切なお話です。じつは、ここまでお話ししてきた病気や害虫の多くを、根本から予防できる方法があります。それが薬でも特別な道具でもなく、「剪定(せんてい)」なのです。なぜなら、病気と害虫がいちばん好む「ジメジメして風通しの悪い環境」をなくせるのが、剪定だからです。
思い出してください。記事の最初で、病気の原因は「湿気・風通しの悪さ・日当たりの悪さ」だとお伝えしました。そして害虫も、混み合ってジメジメした枝のかげを好みます。つまり、病気も害虫も、その根っこにある原因は同じ「枝の混みすぎ」なのです。
剪定が「風の通り道」を作る
剪定で混み合った枝を切り、枝と枝のあいだにゆとりを作ってあげると、木の内側まで風がすうっと通りぬけるようになります。風が通れば、雨にぬれてもすぐにかわき、菌の大好きなジメジメがなくなります。これは、お風呂場の窓を開けて換気するのと同じこと。風通しのよい木には、そもそも病気が発生しにくいのです。薬で病気を治すのは「病気になってから」の対応ですが、剪定は「病気にならないようにする」根本の予防なのです。
日当たりが、木の体力を強くする
剪定で葉の混みすぎを整えると、木の内側まで太陽の光が届くようになります。光をたっぷり浴びた木は、しっかり栄養を作り、体力のある丈夫な木に育ちます。人間と同じで、体力のある元気な木は、病気にかかりにくく、たとえかかっても自分の力ではね返す力を持っているのです。
異変に早く気づけるようになる
さらに、剪定ですっきり整った木は、枝も葉も一本一本がよく見えます。だから、葉の黒い点や枝の傷といった、病気の小さなサインにも早く気づけます。うっそうと茂った木では、奥のほうの異変は見えませんが、風通しよく仕立てた木なら、この記事のチェックシートも、ぐっとやりやすくなるのです。
つまり、病気に強い木を育てる本当の秘けつは、薬をまくことではなく、日ごろの「剪定」にあります。「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」という昔の言葉のとおり、梅はしっかり切ってあげることで、風通しと日当たりがよくなり、病気にも害虫にも負けない元気な木になります。病気の予防を考えている今こそ、ぜひ「剪定」という最強の予防法に目を向けてみてください。当サイトの剪定記事も、あわせて参考にしていただければうれしいです。
読者からよくある質問(Q&A)
Q1. 葉に黒い点が出ましたが、もう木は助かりませんか?
A. 早く気づけたなら、多くの場合は大丈夫です。黒い点のついた葉を取り除いて処分し、風通しをよくしてあげれば、広がりをおさえられます。木全体が一気に枯れることはめったにありませんので、落ち着いて、傷んだ葉から片づけていきましょう。
Q2. 病気の葉は、どう捨てればいいですか?庭に埋めてもいい?
A. 庭に埋めたり、根元に捨てたりするのはやめましょう。そこから菌がまた広がってしまいます。ビニール袋に入れて口をしばり、燃えるゴミとして処分するのがいちばん安全です。落ちている病気の葉や実も、同じように片づけてください。
Q3. 薬はできれば使いたくありません。薬なしでも防げますか?
A. はい、かなり防げます。いちばんの予防は、剪定で風通しと日当たりをよくすること、そして病気の葉や落ち葉をこまめに片づけることです。これらをきちんと続けるだけで、薬に頼らずとも、病気の発生をぐっとおさえることができます。
Q4. すす病で葉が真っ黒です。ふきとればいいですか?
A. 黒い汚れをふきとるのも見た目には効果がありますが、それだけでは根本的な解決になりません。すす病のおおもとの原因は、アブラムシやカイガラムシといった虫です。これらの虫を退治しないと、また黒くなってしまいます。汚れをふくと同時に、必ず虫の対策もしてください。
Q5. 病気が出やすい時期はいつですか?
A. とくに注意したいのは、雨が多くジメジメする「梅雨の時期」です。湿気が多いと菌が一気に増えます。この時期は、いつもより念入りにチェックシートで木を見てあげましょう。また、梅雨に入る前に剪定で風通しを整えておくと、病気の予防に大きな効果があります。
Q6. となりの木に病気がうつることはありますか?
A. はい、うつることがあります。とくに菌は雨や風で飛んで広がります。病気の木の葉や枝はこまめに片づけ、剪定に使ったハサミは、別の木に使う前にアルコールで消毒すると、うつるのをふせげます。
Q7. 毛虫がたくさんついています。さわっても大丈夫ですか?
A. 種類によっては、さわるとかぶれる毛虫もいるので、素手でさわるのはやめましょう。手袋をして、巣ごと枝を切り取って処分するのが安全で効果的です。心配な場合は、無理をせず専門の業者にお願いするのもよい方法です。
Q8. 鉢植えの梅でも、病気の対策は同じですか?
A. 基本は同じです。風通しと日当たりをよくし、病気の葉を片づけることが大切です。鉢植えの場合は、置き場所を変えられるのが利点です。ジメジメした場所を避け、日当たりと風通しのよい場所に移してあげると、病気をふせぎやすくなります。
Q9. 毎年同じ病気がくりかえし出ます。どうすれば?
A. 落ちた葉や実に菌がひそんでいて、それが翌年の発生源になっていることが多いです。秋から冬にかけて、落ち葉や傷んだ実をきれいに片づけることが、来年の予防になります。あわせて、冬の剪定で枝を整理し、風通しのよい木に仕立て直すと、くりかえしを断ち切りやすくなります。
Q10. 自分で対処できないほど病気が広がってしまいました。
A. 木全体に広がっている場合や、大きな木で手が届かない場合は、無理をせず、庭木の専門業者や植木屋さんに相談するのが安心です。プロは病気の種類を正しく見分け、適切な処置と、再発をふせぐ剪定までしてくれます。大切な木だからこそ、困ったときはプロの手を借りるのも、かしこい選択です。
梅の病気は、早く気づいて、正しく対応すれば、決してこわいものではありません。そして何より、日ごろの剪定で風通しと日当たりのよい木に育ててあげれば、病気そのものが寄りつきにくくなります。大切なのは、ときどき木に目を向けて、小さな変化に気づいてあげること。木は言葉を話せませんが、葉や枝で、ちゃんとサインを送ってくれています。そのサインに気づいて手をかけてあげれば、梅の木はきっと、毎年美しい花と実で応えてくれます。やっぱり、梅の木って最高です。




