ウメのベストな収穫日はいつ?『実の熟度』が見極めサイン

はじめに

梅の収穫は、一年の手入れの集大成ともいえる、最高にうれしい瞬間です。なぜなら、春に花を楽しみ、初夏まで木の世話をしてきたごほうびが、いよいよ手のひらにのる日だからです。でも、ここで多くの方がつまずきます。「いったい、いつ採ればいいの?」という、たった一つの大問題です。

じつは、梅の収穫日は「早すぎても遅すぎてもダメ」という、なかなか気むずかしいものです。

たとえば、梅酒を作りたいのに完熟した黄色い梅を採ってしまったり、梅干しにしたいのにまだ青いかたい梅を採ってしまったり。せっかくいい実がなっても、採るタイミングを間違えると、思っていた仕上がりにならず「あれ、こんなはずじゃなかった」とがっかりしてしまうのです。逆に言えば、収穫のタイミングさえバッチリ合わせられれば、梅仕事の成功はほぼ約束されたようなものなのです。

この記事では、「青梅と完熟梅って何がちがうの?」という基本から、「梅酒・梅干し・カリカリ梅、それぞれにベストな熟度サイン」「採りどきを見きわめる五感の使い方」まで、庭師の目線でとことんわかりやすくお伝えします。

そしてもう一つ、いちばん大切なお話も。じつは「いい実が、いいタイミングでなる木」には、ある共通点があります。それが「剪定(せんてい=枝を切って整えること)」です。

この記事を最後まで読めば、収穫のコツはもちろん、「来年はもっと採りやすく、もっといい実をならせるには」までわかるようになります。それでは、一緒に梅の収穫の世界へ入っていきましょう。

まず知っておきたい「青梅」と「完熟梅」のちがい ~同じ木でも別物です~

収穫のタイミングを語る前に、まず「青梅(あおうめ)」と「完熟梅(かんじゅくうめ)」のちがいを知ることが、すべての出発点です。なぜなら、この二つは同じ木になる同じ実でありながら、用途も食感も香りもまったく別物だからです。

青梅とは、まだ熟していない、かたくて緑色の若い実のことです。さわるとコリッとかたく、香りはひかえめで、果肉がしまっています。

一方、完熟梅とは、木の上でじゅうぶんに熟して黄色やオレンジ色に色づいた実のことです。さわるとやわらかく、桃やあんずのような甘くてうっとりする香りがただよいます。同じ枝にぶら下がっていても、採る時期が二~三週間ちがうだけで、まるで別の果物のように変わってしまうのです。

たとえるなら「バナナ」と同じ

イメージしやすいように、バナナで考えてみましょう。緑がかったかたいバナナは、しっかりした歯ごたえがありますね。それが日がたつにつれて黄色くなり、やわらかく甘くなっていきます。

梅もまったく同じで、緑の青梅から、だんだん黄色い完熟梅へと変わっていくのです。どちらが良い悪いではなく、「作りたいものによって、選ぶべき熟度がちがう」ということなのです。

なぜ青いまま使うものと熟してから使うものがあるの?

青梅は果肉がかたくしまっているので、その歯ごたえを生かすものや、エキスをじっくり引き出すものに向いています。完熟梅はやわらかく香り高いので、その風味とやわらかさを生かすものに向いています。

この基本さえ押さえておけば、「自分は今、どっちの梅をねらえばいいのか」が自然とわかるようになります。

つまり、収穫の第一歩は「青梅と完熟梅は別物だと知ること」。これがわかれば、もう半分は成功したようなものなのです。

目的別・ベストな熟度サイン

収穫のベストタイミングは、「何を作りたいか」で決まります。

なぜなら、作るものによって必要な熟度がまったくちがうため、目的を決めずに採ってしまうと失敗するからです。ここでは、「梅酒」・「梅干し」・「カリカリ梅」で採りどきが全然ちがう、人気の三つの梅仕事それぞれについて、プロが見ている「採りどきのサイン」を具体的にお伝えします。

梅酒・梅シロップ用 ~かたい青梅がベスト~

梅酒や梅シロップには、緑色でかたい青梅がいちばん向いています。

なぜなら、かたい果肉のほうがじっくりとエキスがしみ出し、すっきりとした美しい仕上がりになるからです。サインは、実がまだ緑色で、さわるとコリッとかたく、表面にハリとツヤがあること。完熟してやわらかくなった梅で梅酒を作ると、にごったり、味がぼやけたりしやすいのです。

地域にもよりますが、たいていは梅雨に入ったころ、六月の上旬から中旬が青梅の採りどきです。「もう少し置いたら大きくなるかな」と欲ばって待ちすぎると、黄色く熟しはじめてしまうので、青いうちにきっぱり採るのがコツです。

梅干し用 ~黄色く色づいた完熟梅がベスト~

梅干しには、黄色やオレンジに色づいた完熟梅が最適です。

なぜなら、やわらかく熟した実のほうが、皮が薄くてやわらかく、果肉たっぷりのふっくらした梅干しに仕上がるからです。青いかたい梅で梅干しを作ると、皮がかたく、しわしわでごわついた仕上がりになりやすいのです。

サインは、実が黄色~オレンジに色づき、さわるとほんのりやわらかく、桃のような甘い香りがただよってくること。この香りこそが、「いま採ってください」という木からの合図です。鼻を近づけて、うっとりするような甘い香りがしたら、それが完熟のしるしです。

カリカリ梅用 ~とびきりかたい若い青梅がベスト~

カリカリ梅には、青梅の中でもとくに若くてかたい、小ぶりの実が向いています。

なぜなら、あの「カリッ」とした歯ごたえは、果肉がかたくしまった未熟な実からしか生まれないからです。少しでも熟してやわらかくなると、どうがんばってもカリカリにはなりません。サインは、濃い緑色で、さわると石のようにかたく、小ぶりであること。梅酒用の青梅よりも、さらに早めの収穫がポイントです。

つまり、「梅酒はかたい青梅」「梅干しは黄色い完熟梅」「カリカリ梅はとびきりかたい若い青梅」。この三つの合言葉を覚えておけば、もう採りどきに迷うことはありません。

五感で見きわける収穫のタイミング ~色・香り・さわり心地・落ち方~

ベストな収穫日を見きわめる最強の方法は、カレンダーの日付ではなく、「実そのものを五感で観察すること」です。なぜなら、その年の天気や木の状態によって、熟すスピードは毎年ちがうからです。「去年は六月十日だったから今年も」と日付だけで決めるのは、じつは危険なのです。

サイン1:色を見る

いちばんわかりやすいのが色です。鮮やかな緑なら青梅、黄色やオレンジがかってきたら完熟へ向かっているサインです。木全体を見て、全体の色の変化をつかみましょう。ただし、日当たりのよい外側の枝から先に色づき、内側はまだ青い、ということもよくあります。

サイン2:香りをかぐ

完熟のいちばん確かなサインが香りです。木の下に立ったとき、あんずや桃のような甘い香りがふわっとただよってきたら、もう完熟梅が採りごろです。香りは色よりも正直で、見た目はまだ少し緑でも、甘く香りはじめていたら、中身は熟しはじめています。

サイン3:さわってみる

実をそっとつまんでみて、コリッとかたければ青梅、指で押してほんのり弾力を感じればやわらかくなりはじめた完熟梅です。強く押すと傷んでしまうので、あくまでやさしく確かめてください。

サイン4:自然に落ちはじめたか

完熟梅をねらうなら、木の下に目を向けてください。熟した梅は、やがて自分から「ポトッ」と落ちてきます。地面にぽつぽつ落ち始めたら、それは「もう完熟していますよ」という木からの最終サインです。落ちた実も、傷がなければ拾ってすぐ使えます。むしろ完熟梅干しを作る方は、この自然落下を待って拾い集める、という昔ながらのやり方もあります。

つまり、日付に頼らず「色・香り・さわり心地・落ち方」という四つのサインで判断すること。これが、毎年ベストな収穫日をはずさないプロのやり方なのです。

収穫の正しいやり方と注意点 ~実も木も傷つけない~

せっかくのいい実は、採り方ひとつで価値が変わります。なぜなら、収穫のときに実や枝を傷つけてしまうと、その実が傷んだり、木が弱って翌年の実りに影響したりするからです。

青梅を採るときは、実のついている付け根を指でやさしくつまみ、軽くひねるようにして採ります。無理に引っぱると枝ごと折れたり、樹皮がはがれたりしてしまうので注意してください。

高いところの実は、無理に背のびをして枝を引きよせると、枝を傷めるもとになります。三脚を使い、安全な姿勢で採るようにしましょう。とくに五十代以上の方は、無理な体勢での落下事故が本当に多いので、足元の安定をいちばんに考えてください。

完熟梅は、とてもデリケートです。やわらかいので、ぎゅっと握ると指のあとがついて、そこから傷んでしまいます。手のひらでそっと包むように受け止め、カゴにもそっと並べるようにしましょう。たくさん重ねると下の実がつぶれるので、浅いカゴに広げて入れるのがコツです。

つまり、「青梅はやさしくひねる」「完熟梅はそっと包む」「高所は脚立で安全に」。実と木と自分の身体、この三つを大切にしながら採ることが、長く梅を楽しむ秘けつなのです。

【独自の視点A】庭師直伝・ズボラさんでもベストな収穫ができる手抜き術

「毎日木を観察するなんて、そんなにマメにできない」という方もご安心ください。なぜなら、いくつかのコツをおさえるだけで、手間をかけずにベストな収穫ができるからです。

いちばん簡単なのは、「梅干しにするなら、落ちるのを待つ」作戦です。

完熟梅をねらうなら、毎日木とにらめっこする必要はありません。木の下にネットや古いシーツを広げておけば、熟した梅が自分から落ちてきてくれます。あとは一日一回、落ちた実を拾い集めるだけ。これなら見きわめに悩む必要もなく、つねに完熟の実が手に入ります。

もう一つ。「全部いっぺんに採らなきゃ」と気負わないことも大切です。

梅は外側から内側へ、上から下へと、少しずつ熟していきます。だから、色づいたものから二~三回に分けて採れば十分です。一度に完璧をめざすより、「熟したものから少しずつ」のほうが、じつはずっと楽で失敗もありません。

つまり、ズボラ流の本質は「サボる」ことではなく、「木の自然な流れに任せる」ことです。気楽に構えるくらいが、じつは収穫上手への近道なのです。

【独自の視点B】「いい実が・いい時期に・採りやすくなる」のは剪定のおかげ

ここからが、梅の専門サイトだからこそお伝えしたい、いちばん大切なお話です。

じつは、「ちょうどいい大きさの実が、ちゃんと熟して、しかも採りやすい高さになる」のは、ぜんぶ「剪定(せんてい)」のおかげなのです。なぜなら、放っておいた木と手入れした木とでは、実のなり方も熟し方も、採りやすさもまるでちがうからです。

剪定すると、実が均等に熟す

枝が伸び放題でうっそうとした木は、葉が日光をさえぎり合い、内側まで光が届きません。光の当たる外側の実だけが先に熟し、内側はいつまでも青いまま、というムラができてしまいます。これでは「いつ採ればいいのか」がバラバラで、見きわめが本当にむずかしくなります。

一方、きちんと剪定されて枝のあいだにゆとりのある木は、すべての実にまんべんなく光が当たり、実がそろって熟してくれます。だから収穫のタイミングがつかみやすいのです。

夏の剪定が、実の大きさを決める

そして、収穫する実の大きさそのものを左右するのが「夏の剪定」です。夏に余分な枝(徒長枝=とちょうし、勢いよくまっすぐ伸びる枝)を整理しておくと、木の栄養が実のほうへしっかり集まり、翌年の実がぐんと大きく充実します。

「うちの梅は毎年小さくて、梅酒にするには物足りない」という方は、収穫の問題ではなく、夏の剪定を見直すと一気に解決することが多いのです。当サイトの夏の剪定の記事も、ぜひあわせてお読みください。

冬の剪定が、採りやすい木をつくる

さらに、葉が落ちた冬の剪定では、木の高さや枝ぶりを整えることができます。背の高くなりすぎた木は、収穫のときに三脚が必要になり、五十代以上の方には危険もともないます。

冬のうちに高さをおさえ、手の届く範囲に実がなるように仕立てておけば、毎年の収穫がぐっと安全で楽になります。「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」という昔の言葉のとおり、梅はしっかり切ることで、かえって元気になり、扱いやすい木になるのです。

つまり、ベストな収穫の本当のスタート地点は、収穫の日ではなく「日ごろの剪定」にあります。剪定という土台があってこそ、いい実が・いい時期に・採りやすくなるのです。収穫のコツを学んだ今こそ、ぜひ「木を仕立てる楽しみ」にも目を向けてみてください。

読者からよくある質問(Q&A)

Q1. 青梅を採ったあと、置いておけば完熟梅になりますか?

A. ある程度は追熟(ついじゅく=採ったあとに熟すこと)します。青梅を風通しのよい室内に二~三日置いておくと、黄色く色づき、甘い香りが出てきます。ただし、木の上で完熟したものほどの香りや味にはなりにくいので、梅干しにしたいなら、できるだけ木で熟したものを採るのがおすすめです。

Q2. 採りどきを逃して、実が落ちてしまいました。もう使えませんか?

A. 落ちた実でも、傷がなければじゅうぶん使えます。むしろ完熟梅干し用には、自然に落ちた実を拾うやり方もあるくらいです。地面で傷ついたものや、土がついて汚れたものは避け、きれいなものだけを選んで、よく洗って使ってください。

Q3. 同じ木なのに、実の熟し方がバラバラなのはなぜ?

A. 日当たりのちがいが大きな原因です。光のよく当たる外側や上のほうの実は早く熟し、日かげになる内側や下は遅れます。これは自然なことなので、熟したものから順に採れば大丈夫です。なお、枝が混みすぎて全体の日当たりが悪い場合は、剪定で風通しをよくすると、熟し方がそろいやすくなります。

Q4. 収穫した梅は、すぐに使わないとダメですか?

A. 青梅は比較的日もちしますが、完熟梅はやわらかく傷みやすいので、できるだけ早く使うのが基本です。すぐに使えないときは、洗って水気をふき、保存袋に入れて冷凍しておくと、梅酒やジャムにそのまま使えて便利です。

Q5. 実がほとんどならず、収穫するほどありません。なぜでしょう?

A. いくつか原因が考えられますが、剪定不足や、枝の混みすぎによる日照不足はとても多い原因です。光が届かない木は花つきも実つきも悪くなります。とくに夏の剪定で風通しと日当たりを整えると、翌年の実つきが大きく変わることがあります。ぜひ当サイトの剪定記事を参考に、木のお手入れから見直してみてください。

Q6. 木が大きすぎて、上のほうの実が採れません。どうすれば?

A. 無理な背のびや木登りは大変危険なので、絶対にやめてください。当面は高枝ばさみや脚立を安全に使い、根本的には冬の剪定で木の高さをおさえることをおすすめします。手の届く高さに仕立て直せば、翌年からの収穫が見ちがえるほど楽になります。

梅の収穫は、一年の手入れがぎゅっと実を結ぶ、いちばんしあわせな瞬間です。そして、そのしあわせをもっと大きく、もっと確かなものにしてくれるのが、日ごろの剪定です。今年もちょうどいい採りどきで、最高の一粒が収穫できますように。そして、その実を毎年ならせてくれる木のことも、どうか大切にしてあげてくださいね。やっぱり、梅の木って最高です。