今回は、「夏に枝が伸びすぎて鬱陶しい!小ぶりに切り詰めたいけど枝垂れ梅の基本の剪定がわからない」という、兵庫・I様の事例を、いただいた写真を元に、庭師歴25年の経験から剪定や手入れの方法を解説していきます。
「枝抜きはしているけれど、基本が分からない」「どこから切ればいいのか分からない」というのは、枝垂れ梅を育てる方によくあるお悩みです。最後まで読んでいただければ、なぜ鬱陶しくなるのか、その根本原因と解決法がはっきり分かります。
剪定の基本が判らず、枝が伸びすぎ、夏、繁りすぎて鬱陶しく、枝抜きしてしまいます。
小ぶりに切り詰めるべきかと考えていますが、どこから切るべきか判らず、アドバイス下さい。
というご相談内容です。4枚の写真を送っていただきました。




1. まず写真を見た感想:原因は「懐の空間不足」
まず、枝垂れ梅の写真を見せていただいた感想からお伝えします。結論として、I様が夏に鬱陶しく感じる原因は「幹に近い所(懐)に空間が少ないこと」だと思います。
なぜそう判断したのか、説明していきましょう。全体的に枝の長さは良いと思いますので、長さに関しては適宜に切ってください。上から撮っている写真を見る限りでは、全体的にちょうどよく透かされている感じがして、良いと思いますよ。I様は、枝抜き(枝を間引くこと)をきちんとされているので、決して下手なわけではありません。
ただ、夏に葉が繁りすぎて鬱陶しいということですが、剪定する箇所により、若干の問題を発見しました。たぶん鬱陶しく感じる原因は、幹に近い所に空間が少ないことだと思います。
たとえるなら、これは「部屋の真ん中に物がたくさん置いてある」状態に似ています。部屋の隅々まできれいにしていても、真ん中に物が詰まっていると、なんだか圧迫感があって、ごちゃごちゃして見えますよね。枝垂れ梅も同じで、外側がきれいに透かされていても、幹の周り(懐)が枝で詰まっていると、鬱陶しく感じてしまうのです。
つまり、I様の問題は「枝の切り方」そのものというより、「切る場所の選び方」にあったのです。これは、ちょっとしたコツを知るだけで解決できます。これから、その具体的な方法をお伝えしていきます。
2. 枝垂れ梅の剪定について
結論として、枝垂れ梅の剪定で大切なのは「上に伸びる枝を残し、下に伸びる枝を切る」ことです。これにより、懐に空間ができて、鬱陶しさが減ります。
枝垂れ梅の基本的な剪定を、一度図で解説しておきます。下の画像を見てください。

青の破線丸の部分は、右の木も左の木も、同じ部分だと思ってください。
まず、右の木を見てください。右の木は、左の木の青の破線丸部分において、緑色の線で切ったときの樹形です。枝が内側に向かっているのが分かると思います。実は、これがI様の剪定で、若干気になった切り方なのです。内側を向いた芽の上で切ってしまうと、その先から内向きの枝が伸びてしまうのですね。
本来、上に伸びた枝が自然に垂れてくると、ちょうどよい樹形になります。
これとは逆に、左の木を見てもらうと、赤の線で切っています。赤の線で切ることで、枝が上に向かって伸びます。枝垂れる木の習性は、枝が垂れてくるので、上に向かって伸びる枝を残して、下に伸びる枝を切るのです。
そうすることで、幹に近い所に空間ができるようになり、鬱陶しさがかなり減ると思います。
ここで、大切なポイントを補足します。同じ枝を切るのでも、「どの芽の上で切るか」で、その先に伸びる枝の向きが変わります。外側・上向きの芽の上で切れば、その先は外へ上へ伸びてから垂れます。内側・下向きの芽の上で切れば、その先は内側や下へ伸びてしまいます。これが、I様の樹形が少し詰まって見えた原因なのです。「切る位置のすぐ下の芽が、どっちを向いているか」を意識するだけで、樹形は見違えるように変わります。
3. なぜ「上向きを残す」ときれいになるのか
ここで、なぜ枝垂れ梅は上向きの枝を残すのか、その理由をくわしくお伝えします。結論として、枝垂れる木は「上に伸びた枝が、自分の重みで自然に垂れてくる」習性があるからです。
なぜこの習性を利用するのでしょうか。枝垂れる木の枝は、最初は上に向かって伸びても、やがて自分の重みで方向転換して、下に垂れていきます。だから、上向きの枝を残しておけば、一度上に伸びてから優雅に垂れ下がり、美しいカーブを描くのです。
たとえるなら、これは噴水と同じです。噴水の水は、いったん勢いよく上に上がってから、放物線を描いて美しく落ちてきますよね。枝垂れ梅の枝も、上向きの枝が一度上に伸びてから垂れるからこそ、あの優雅な姿になるのです。
逆に、最初から下を向いている枝を残すと、どうなるでしょうか。その枝はそのままダラリと下がるだけで、美しいカーブが生まれません。それどころか、下のほうに枝が集中して、どんどん厚く重苦しくなってしまいます。これが、鬱陶しさの大きな原因です。
I様の場合も、内側や下向きの枝が残っていたことで、懐が詰まって鬱陶しく感じていたのだと思います。「上向きを残し、下向きを切る」。このシンプルな原則を意識するだけで、枝垂れ梅は自然と美しく、すっきりした姿になっていきます。
4. 写真で枝垂れ梅の剪定を解説
それでは、I様の写真を使って、具体的にどう切ればよかったのか見ていきましょう。
結論として、I様は「もう少し外側の枝を残して、内側に伸びる枝を切る」と、懐に空間のある美しい枝垂れ梅になります。
下の画像で、たぶんその先を切ってしまったかもしれない枝を、赤線で作ってみました。

この赤線の枝を残して、内側に伸びる枝を切ってやれば、見栄えの良い、懐に空間のある枝垂れ梅ができるはずでした。つまり、I様は本来残すべき外側の枝を切ってしまい、内側の枝が残ってしまった可能性がある、ということです。
次の画像で、写真ではどの枝を切ったらよいのか、なかなか判断がつかなかったので、このような感じで切れば良いという図を横に描き、コメントしておきました。

切り方の基本をまとめます。基本的に、下に向かって伸びる枝を、緑色の線の位置で、すべて切ります。そして、上側に伸びた枝でも、混みあっていたり、バランスが悪い枝は切って、それ以外は極力残すようにします。
ここで初心者の方へのアドバイスです。「下向きは全部切る」のは分かりやすいですが、「上向きをどこまで残すか」で迷うかもしれません。コツは、「混みあっているか」「バランスが悪いか」で判断することです。上向きでも、隣の枝とぶつかって混みあっているものや、一本だけ飛び出してバランスを崩しているものは切ります。それ以外の、すっきり外へ上へ伸びている枝は、できるだけ残す。こう考えると、判断しやすくなります。
剪定に使う道具も大切です。よく切れる剪定ばさみなら、切り口がきれいで木に優しく、細かい枝も思い通りに切れます。剪定バサミは、切れ味と耐久性に優れた「おの義(推奨)」のものを選べば間違いありません。
5. 夏に鬱陶しくなったときの対処法
I様のように「夏に枝が繁りすぎて鬱陶しい」という場合の対処法を、くわしくお伝えします。結論として、夏に鬱陶しくなったら「軽い間引き」で対処し、本格的な剪定は冬に行うのが正解です。
なぜ夏は軽い間引きだけにするのでしょうか。理由は2つあります。一つは、夏は木が活発に活動している時期なので、強く切ると木に負担がかかるからです。もう一つは、枝垂れ梅は夏(7~8月頃)に来年の花芽をつけるので、夏に強く切ると、花芽ごと切り落としてしまうおそれがあるからです。
具体的な夏の対処法をお伝えします。夏に鬱陶しいときは、下向きに伸びた枝や、その新芽を、見つけしだい取り除きます。これは花芽がつく上向きの枝ではないので、取っても花は減りません。むしろ、無駄な枝に栄養を取られなくなり、風通しも良くなって、一石二鳥です。小さい新芽なら、手で簡単にもぎ取れます。
ただし、夏は「軽く整える」程度にとどめてください。本格的に懐の空間を作る剪定や、樹形を整える剪定は、葉が落ちて花芽が確定した冬の休眠期に行います。冬なら、丸い花芽を見分けて残しながら、じっくり剪定できるからです。
つまり、I様への提案はこうです。夏は、下向きの枝や新芽を軽く間引いて、鬱陶しさをしのぐ。そして冬に、今回お伝えした「上向きを残し、内向き・下向きを切る」剪定で、懐に空間を作る。この二段構えで対処すれば、夏の鬱陶しさも、根本的な樹形の問題も、両方解決できます。
6. 失敗しない!花芽と葉芽の見分け方
冬の剪定で花を減らさないために、欠かせないのが花芽と葉芽の見分けです。結論として、この見分けさえできれば、枝垂れ梅の剪定で大きな失敗をすることはありません。
なぜなら、枝垂れ梅の花が咲かない失敗のほとんどが、知らずに花芽を切ってしまうことが原因だからです。逆に言えば、花芽を見分けて残すことさえできれば、安心して剪定ができます。
具体的な見分け方は、とても簡単です。丸くてふっくら太っているのが「花芽」、細くてとがっているのが「葉芽」です。花芽はこれから花になる赤ちゃんなので、ぷっくりしています。葉芽は葉っぱになるので、鉛筆の先のようにツンととがっています。
たとえば、ぶどうの粒のように丸くなっている芽を見つけたら、それが花芽です。指でそっと触って「丸いな」と感じたら、来年の花だと思って、絶対に切らないようにしましょう。
ここで、枝垂れ梅ならではの大切なポイントをお伝えします。枝垂れ梅は、古い枝には花がつきにくく、花後に伸びた新しい枝に花芽がつきます。ですから、I様が夏に枝抜きをするときも、上向きの新しい枝(花芽がつく枝)は残し、下向きの不要な枝を取り除くようにしてください。葉が落ちた冬なら花芽がはっきり見えるので、本格的な剪定は冬に行うのがいちばん安全です。
7. 枝垂れ梅の基本の剪定に関するQ&A(よくある質問)
最後に、枝垂れ梅の基本の剪定について読者の方からよく寄せられる質問にお答えします。あなたの疑問もきっとこの中にあるはずです。
Q1:きちんと枝抜きしているのに、夏に鬱陶しく感じます。なぜですか?
外側の枝をきれいに透かしていても、幹に近い「懐」の部分に枝が詰まっていると、鬱陶しく感じます。これは、部屋の隅をきれいにしても、真ん中に物が積んであると圧迫感があるのと同じです。対策は、内側に向かう枝や下向きの枝を取り除いて、懐に空間を作ることです。これだけで、ぐっとすっきりします。
Q2:「懐に空間を作る」とは、具体的にどうすればいいのですか?
幹の周り(懐)に向かって内側に伸びている枝や、下に垂れ下がっている枝を、付け根から切り取ることです。枝が幹を中心に「外側へ、上へ」伸びるように仕立てると、内側に空間ができます。内側がスッキリすると、枝垂れる枝が引き立ち、風通しも良くなって、夏の鬱陶しさも病害虫も防げます。
Q3:切る位置で、その後の枝の向きが変わると聞きました。本当ですか?
本当です。枝を切るとき、切った位置のすぐ下の芽が向いている方向に、新しい枝が伸びます。外側・上向きの芽の上で切れば、その先は外へ上へ伸びてから垂れます。内側・下向きの芽の上で切ると、内側や下に枝が伸びて、樹形が詰まってしまいます。「切る位置の下の芽がどっちを向いているか」を意識すると、樹形がきれいに整います。
Q4:下向きの枝は、すべて切ってしまっていいですか?
はい、基本的に真下に向かって伸びる枝は、すべて切って大丈夫です。枝垂れ梅は、上向きの枝が自然に垂れて美しいカーブを作るので、最初から下を向いた枝は不要なのです。下向きの枝を残すと、下のほうが重苦しくなり、鬱陶しさの原因になります。迷ったら「下向きの枝を切る」ことから始めてください。
Q5:上向きの枝は、全部残していいですか?
基本は残しますが、上向きでも「混みあっている枝」や「バランスを崩している枝」は切ります。隣の枝とぶつかっているものや、一本だけ飛び出しているものは整理しましょう。それ以外の、すっきり外へ上へ伸びている枝は、できるだけ残します。「混みあい・バランスの悪さ」を目安にすると、判断しやすくなります。
Q6:夏に切っても大丈夫ですか?それとも冬まで待つべきですか?
夏は「軽い間引き」にとどめ、本格的な剪定は冬まで待つのが正解です。夏は木が活発に活動し、来年の花芽もつく時期なので、強く切ると木が弱ったり花が減ったりします。夏は下向きの枝や新芽を軽く取り除く程度にし、懐に空間を作る本格的な剪定は、花芽が見やすい冬の休眠期に行いましょう。
Q7:小ぶりに切り詰めたいのですが、どうすればいいですか?
小ぶりにしたい場合は、伸びすぎた枝を、枝が垂れ始める位置や半分くらいで切り戻します。ただし、一度に強く切りすぎると枝垂れの趣がなくなるので注意してください。また、てっぺんで上に伸びる芯の枝を止めて、横に広げるようにすると、高さを抑えてコンパクトに保てます。本格的な切り詰めは、冬に行うのがおすすめです。
Q8:花芽を切らないか心配です。見分け方を教えてください。
いちばん簡単なのは「丸くふっくらが花芽、細くとがっているのが葉芽」と覚えることです。指でそっと触って「ぷっくりしているな」と感じたら花芽です。葉が落ちた冬の剪定なら、丸い花芽がはっきり見えるので見分けやすいです。それでも迷うときは「切らない」のが安全です。残す上向きの枝についた丸い芽は、特に大切にしてください。
8. まとめ:懐に空間を作れば、鬱陶しさは消える
この記事では、兵庫のI様の事例をもとに、枝垂れ梅の基本の剪定について、詳しく解説しました。
今日お伝えしたことを、もう一度シンプルにまとめます。I様が夏に鬱陶しく感じる原因は「懐(幹の近く)の空間不足」。解決法は、内側に向かう枝と下向きの枝を切り、外側・上向きの枝を残すこと。切る位置のすぐ下の芽が、どっちを向いているかを意識すること。夏は軽い間引きにとどめ、本格的な剪定は花芽が見やすい冬に行うこと。これらを押さえれば、夏の鬱陶しさは消え、すっきり美しい枝垂れ梅になります。
I様は、すでに枝抜きをきちんとされていて、外側はきれいに透かされていました。あと一歩、「懐に空間を作る」という視点を加えるだけで、樹形がぐっと洗練されます。決して下手なのではなく、もう一つコツを知るだけだったのです。
まずはご自分の枝垂れ梅をよく観察し、幹の近くに枝が詰まっていないか、内側や下に向かう枝がないかを見てみてください。そして、それらを取り除いて、懐に空間を作ってあげましょう。きっと、夏の鬱陶しさが嘘のように消えて、優雅な枝垂れの姿がよみがえるはずです。
良い道具は、楽しい手入れの相棒になります。剪定バサミは切れ味と耐久性に優れた「おの義(推奨)」を一本持っておけば、枝垂れ梅と長く付き合っていく心強い味方になってくれます。
I様、そしてこの記事を読んでくださったあなたの枝垂れ梅が、これからも毎年春に、優雅で美しい花を咲かせ続けることを心より願っております。





